act13


だらりと垂れる腕には痛々しい殴打の跡。乱れた髪の隙間から覗く顔は徹底的に潰されていて、肉の隙間から所々血に濡れた骨らしきものが見えている。

新たな制服に身を包んだローレルとテオは息を合わせてレプスの遺体を持ち上げると、運搬用のリヤカーに乗せた。

力を無くした四肢はリヤカーの形に収まるように投げ出され、かつてステージで輝いた残虐な野兎は見る影もない。

「君も無事なようでよかった。……他の人も、後から合流できるといいんだけど。まずは頑張って二人で運ぼうか」

「そっスねぇ。サーカステントが燃えて心地よく暖もとれて?女の遺体も男二人で処理する…なかなかホットなユークロニアにローレル先輩が残っててくれて 俺嬉しいですよ」

笑顔で話しかけたローレルと、明るくウインクを飛ばすテオ。

彼らは今、負傷者に出された指示である遺体の回収に務めている最中である。


ローレルが少し顔を顰めて「こら。例え敵対していた人たちでもそれぞれ事情があるんだろうからそう笑いものにするのはよくないよ」とテオの発言に注意をすれば、いつもの軽い返事が返ってくる。

彼の様子に感じるのは少しの呆れと安堵。

日常が帰ってきたかのような錯覚に表情が砕けるのを感じて、これではいけないと表情を引き締めた。

「でも僕もテオが残っていてくれてよかったと思うよ。まだ全部終わったってわけじゃないから喜ぶのは早いかもしれないけど」

ローレルはそう言いながら、次に向かうべき地点を確認する。

どうやら最効率ルートによると、次の仕事はタランテラのようだ。男が二人居るといえど、あの巨体を持ち上げるのは骨が折れるだろう。

しかし、ローレル達にはイライザから出発前に掛けられた言葉があった。

​───“助っ人を頼んであるから、その子達と協力して。初めての仕事で緊張してるだろうし、先輩として仲良くしてあげるんだよ”。

その言葉を思い出したテオは困ったような表情を作り、口を尖らせる。

「てかぁ、イライザ様が助っ人がどーのとか言ってましたよね?

俺の大事な可愛い後輩ポジションが剥奪される悲しい瞬間なんですけど。この後会うんですかね?」

「そうだったね。例え新しい人が来ようとテオが僕の後輩であることには代わりがないと思うけど…。」

ローレルの言葉にテオは残念そうに溜息をこぼす。どうやら、そんな宥め方では満足が行かないらしい。

テオはそれほど後輩という立場をいたく気に入っているようだ。

「それはそーですけど。俺は”みんなの!”後輩がいいんスよ〜…」

「う〜ん……難しい相談だなぁ。

でも先輩になるんだから二人で立派な姿を見せないとね」

テオに困らされながらも、ローレルはお手本のように背筋を伸ばしてみせる。その様子にゴネたところでこの会話に未来は無いと悟ったのか、テオはとうとう観念したように笑顔を作った。

「立派、立派ね。わかりました!俺なりに頑張るんで見ててくださいね〜っ!」

彼らしい、どこか信用ならない笑顔。

ずっと変わることのない、貼り付けられた可愛げを掲げ続ける後輩。

その姿にどれだけ安心出来ることだろうか。

ローレルは微笑み、「ちゃんと見てるよ。頑張って」と、喝を入れるようにテオの背を叩いた。



現場に到着すると、タランテラの遺体のすぐ側でツインテールの少女と白髪の青年が待っていた。

どうやら、彼女達がイライザの言った助っ人らしい。

ローレルとテオが近付くとどうやらあちらも気がついたらしい。少女は手を振りながら、青年は少女に連れられて、二人に駆け寄ってくる。

助っ人との合流を果たせた。

これは良いことである。

良い事である筈なのに、その姿に感じるのは違和感だった。

最初は嬉しそうに見ていたローレルだったが、顔が視認出来る位置までくると立ち止まって、表情には徐々に怯えが滲んでゆく。

対してテオは、面白くて堪らないとでも言いたげに笑みを深めて、瞼の裏に浮かんだ人物を彼女達に照らし合わせる。

ウィッチ・ゼロトリー。シュル。

彼らは、片や手を加えられて生まれ変わり、片やこの街の支配者に魂を売ったのだ。

「え?やば。もしかしてもうこっち側の住民?ウケますねこれ。こっち来るなら最初からそう言ってくれればよかったのに〜!やっぱ好きだわ〜あんた達の事〜!ね?ね!嬉しいですよね!」

テオはローレルに共感を求めるように笑顔を向けるが、彼はテオから目線を逸らす。

「……ええと…………本当に自分達の意思できたのなら確かに喜ばしいこと、ではあるけれど……」

ローレルはそのまま不安そうにシュールの様子を伺うが、シュールの真っ黒の瞳は答えを返さない。

「……あぁ、やっと来たんだ。イライザから色々聞いてるよね?とっとと終わらせよう」


ローレルはかつて、サーカステントで彼と話した日を思い出す。

“…別にサーカスに居るのは嫌じゃないんだよ、ウィッチが喜んでくれるから。でも僕はただサーカスとして普通に観客を喜ばせるショーがしたいだけなのに。それだけじゃダメなんだ。”

彼が悲しそうにそう言うものだから、いつかは温室に招くという約束と共に、ユークロニアを居場所とする提案をした。

サーカステントの外はこんなに幸せな世界が広がっていて、ここで君が楽しく暮らしていけたら良い。

そう思っていたのに、どうしてこうなってしまったのだろう。


「シュール!なんでそんないけずすんねん、も〜っ!ごめんなあ、なんか機嫌悪い?みたいで」

ローレルの憂いなど知らないマリアは、焦ったようにシュールを庇うように謝ると背筋を正す。

「はじめましてっ……!うち、マリアっていいます!最近ユークロニアに来ました、よろしくお願いします!」

「シュール。お前らのコウハイってヤツになるの、困った時は助けてね」

シュールは宥められると渋々二人に向き合ってマリアに続くように短く挨拶を交わした。

そんな自己紹介をしらけた様子で聞いていたテオが冷めた目で呟く。

「お〜…これが先輩の気持ちなんですね〜…なんか慣れないな」

殺人サーカス団Black widow団長、ウィッチ・ゼロトリーと、その腹心シュル。

彼女達に何があったかは分からないが、イライザは彼女達がこうしてユークロニアの住人となることを許した。

ならば、かつてユークロニアに楯突いた相手であっても笑顔で受け入れて会話を楽しむのが幸福の街の住人だ。

「マリア先輩とシュール先輩ですねぇ〜!俺テオって言うんですけど、頼むからそんなに先輩扱いしないでください。よろしくお願いしますよ」

テオは明るい口調と笑顔で気持ちを上書きすると、そう言った。


「……ローレルだよ。君たちの先輩にあたるけれどそんなに畏まらなくても構わない。困ったことがあればこっちのテオに聞くといいよ」

「なんで俺ェ……?」

「せっかくまた生きて会えたのにそんなに寂しい事言わないでよ。…まぁ今はそんな話してる場合じゃないけどね。また後で」

シュールは寂しそうに笑うローレルに微笑みを向けると、レプスの遺体が入ったリアカーを指さし、嫌そうに顔を顰めるテオに話しかける。

「それじゃあ早速聞くけど、この死体はそこに積めばいいの?」

テオからは返ってきたのはまず、大きな溜め息。

先輩だからと面倒を見たり、頼られたり、責任を負うなんて立派な事は自分のする事では無い、とでも言いたげに肩を少し竦める。

「そーそ、話がはやいッスねぇ。運んだらいいんスよ〜。わざわざ四人も集まるってのちょっとオモロい構図なんですけどね。たかが女一人を運ぶだけなのにさぁ」

「それもそうだね。お前らのとこのパパは効率が良いヤツだと思ってたんだけど」

「ひょっとしたらうちらに友達を作れる機会をくれたとか……?いひひっ、そうやったら嬉しいな〜!」

「まーいーじゃん 修学旅行気分ってことで!あんまし知らない人で班組んで顔合わせて飯食う気まずい昼休みみたいになってますけど、俺らなら仲良くなれますよ!ってことで仲良くなれなさそうな三人!頑張れ!」

「頑張るって言ったそばから……。みんなで協力するって話だっただろう」

テオはローレルの困り顔とシュールの苛立ちを含んだ視線を無視して、笑顔を向け続ける。どうやらサボりモードの彼を説得する方が時間がかかりそうだ。

説得に時間をかけて、やる気満々のマリアを待たせるのも悪いだろう。

テオは大人しくサボらせておくことにして、ローレルはタランテラの遺体に触れる。

眼球が抜き取られていても尚、穏やかな遺体の表情は、普段の彼女の様子とあまり差異を感じられない。まるで今からでも動き出しそうな不気味さだ。

しなやかなその指先が再び動くことがないよう祈りながら持ち上げると、ゆっくりとリヤカーに乗せた。


「はぁっ、はぁっ……が、頑張ったで!うち、ちゃんと先輩できとるか……!?」

「お〜!!すっっごい!流石マリアせんぱ〜ぁい!それでこそ俺の尊敬する先輩ってやつですよ〜!!皆流石ッスねぇ!」

「ほんま〜!?おおきになあ!」

傍では、マリアをわざとらしく褒めちぎるテオと照れくさそうに喜びいっぱいの笑顔を浮かべるマリアがいた。

彼らはもう馴染んでいるのか、楽しそうに会話を楽しんでいる。

テオのように変化を受け入れる気も、その様子をぼんやりと見ているシュールに話しかける気にもなれず、ローレルはリヤカーを押すと次の地点への案内を始めた。


次はマーシャだ。彼女はニュンの手で殺されたらしい。遺体のある場所へと移動すると、殺されてから弄ばれたのか、不自然な血痕が残る。

「……マーシャ…」

「今度は小さい子だね、よかった。体力使わなそうで」

「このお姉さんも警備員の方やってんなあ……ご冥福をお祈りします……」

どうでもよさげなシュールとは対照的に、マリアは悲しそうに目を伏せると、マーシャの前で静かに黙祷を捧げている。

見知らぬ人の不幸に心痛める、なんと純真無垢で慈悲深い少女だろう。

​──彼女がウィッチ・ゼロトリーのクローンでさえなければ、心からそう思えていたのに。

「んね〜酷いですねぇ相変わらず。街の平和守ってるだけで?こんな目に?あうなんて??ねぇ〜?」

彼の嘲るような発言が気に障ったらしい、シュールの鋭い目線がテオに刺さる。ローレルは急いで間に割って入ると、口を開いた。

「どういう最期を迎えようと大切な誇りのある仕事だよ。何事も危険はつきものだ、あまりそう茶化すものではないよ」

「ま、マーシャ先輩もちゃんと運びましょ〜ね〜」

「今度はお前もちゃんと運べよ。マリアとローレルはリヤカーの方行っていいから」

「……え、僕も一緒に運ぶよ。…マリアはリヤカーの方で待っていてくれるかい?」

ローレルはウィッチ、と名前を呼ぼうとして首を振った。違う。ウィッチと呼ばれても、マリアは知らない。彼女は別人として生まれ変わったのだ。

「……ひょっとして、うちがおると運びづらいか?」

「うわぁ、酷い…仲間はずれなんて良くないですよ!どんな教育を受けたんスか!」

「あぁ、そういうんじゃないよ!マリアは一番小柄だし、疲れちゃうでしょ」

「うん。そうは言っていないけれど……そういう意味に聞こえたなら謝るよ」

ローレルの謝罪を受けて安心したのか、シュールに頭を撫でられたからか、マリアは気持ちよさそうに目を細める。

その和やかな光景の裏では、ひっそりとシュールに脛を蹴られたテオが蹲り、痛みに耐えていた。

シュールもとうとう堪忍袋の限界が来たらしい。

「いた〜……もう、わかりましたよ。俺がちゃんとやればいいんですよね?ローレル先輩とマリア先輩、待ってていいですよ。

そしたら二人二人で仲間はずれも無しでしょ?俺は今からシュール先輩と初めての共同作業するんで任せてください」

「そうそう、それでいいんだよ。いい子だね」

「わかった、気をつけてね」

シュールとテオのことは心配だが、マリアを連れてリヤカーの方で待つことにする。

後ろを振り返ると、マリアは不思議そうに首を傾げた。

彼女に違和感を感じ続けるのは失礼になるのかもしれないが、だからといって気持ちの整理がつけられる筈もない。彼女から目を逸らすように、テオとシュールの方を見た。


「大丈夫ですって。

で、初めての共同作業ですけど 誘ってきたのはそっちなの申し訳ないんですが、籍とか考えてないんで軽率に誘うの…やめてくれません?気まずいんで〜。どうしてもって言うなら考えますよ?あ、名前はそっちに合わせます」

テオは馬鹿にするように冗談を口にし、シュールもそれに苛立ちながらも、二人は息を合わせ、マーシャの遺体を軽々と持ち上げた。

「相変わらずの減らず口だね。縫い付けてやりたい。お喋りなお前のことだからそんなことしたら死んじゃうかな…なんてね」

「あ、否定しないんですね。図星?ベタだなぁ…もっとロマンチックにプロポーズしてください」

仲間の遺体を運びながら冗談を言えるのは彼くらいなものだろう。

テオはリアカーのある地点まで来ると、マリアとローレルに問いかける。

「あのー、誰かこの人にプロポーズの仕方教えてやってくれませんか?」

二人は目を丸くし、少し考え始めた。

「?……えっと、仕事が終われば一緒に映画とか見にいこっか?」

「相手にしなくていいよこんなの」

ローレルの提案にシュールは溜息混じりにそう言うと、遺体を積み込んだ。


次は剤だ。どうやらここからそこそこ近いらしい。最初と比べて重たくなったリヤカーを押して移動すれば、自分たちと同じ、新たな制服に身を包んだ彼女が地面に体を横たえている。


「……えっと、シュール。さっきの話やけどさあ」

リヤカーを押しながらずっと考え込んでいたらしい、黙っていたマリアが口を開く。

シュールがマリアの顔を覗きこむとばちり、目が合った。

マリアの瞳の中でライトブルーの十字が輝く。

彼女の持つ記憶、人格、存在全てはシュールが望んだ理想であり、本物のウィッチ・ゼロトリーとは異なる点もイライザを騙して刷り込ませたものだ。

不安げに見上げるその瞳は、そんなことも露知らず、作られた自我である事を自覚しないまま、それが自分自身だと信じて生きていくのだろう。

さあ、愛しのマリアは俺にどんな幸福を与えてくれるのか。

シュールはそんな期待を込めて、「ん?どうかしたの」と聞く。

「うちとやったら、何処へでも着いてきてくれるか?」

「もちろん!何処までも着いていくし、着いて来てもらうよ。俺から離れないでね」

「……うん、勿論!」

不安そうな顔を安心させるように肩を抱き寄せて労わるように摩ると、彼女の表情が幸せそうな笑顔に変わる。

それを見て、シュールは自分の表情が緩んでいくのを感じた。

「だからこんな仕事さっさと終わらせて帰ろう。マリアとやりたいことまだ沢山あるからさ」


「なんかあの二人めっちゃお熱い感じ?ありゃ一人欠けたらまずいタイプのやつですね〜…俺たちもここでベタベタに仲良くしときますか〜 ほら、行きましょ〜」

「……?そうだね。この間に二人で仲良く運んでしまおうか」

お熱い感じ、あたりはあんまピンと来なかったが、ローレルはテオの言葉に従い、剤の遺体に手をかけて持ち上げる。

その時、閃光に目が眩んだ。


突然の事に何が起こったのか頭では理解出来なくて、咄嗟に光源である遺体から手を離す。

地面へと落ちてゆく剤の口元は、してやったりと、弧を描いているように見えた。

逃げられない。

絶望を直視する暇もなく、彼女の体に巻き付けられていた爆弾達はその真価を発揮する。

高温の爆風はローレルとテオの体を焼き尽くさんと皮膚を傷つけながら広がってゆき、その痛みは針で刺され続けるような責め苦にも、電流を流されるような拷問にも似ていて、思わずはくはくと息を吐きしてしまう。

更に、呼吸と共に吸収された熱気と煙煤は気道を焼きながら肺に侵入し、酸素の無い吸気を供給した。

頭が掻き回されるような感覚と共に、視界が歪み、平衡感覚は失われて、二人は思わず崩れ落ちる。


「……っ、みんなは、」

ローレルは薄れゆく意識の中、周りの三人の様子を確認しようと目を開く。しかし、目の前に広がるのは無慈悲にも燃える赤のみで、状況確認などはとても出来そうになかった。

諦めて目を閉じると、目蓋の裏に浮かぶのは愛しい人の顔だった。

真っ直ぐで努力家で、人の事を思いやれる優しいコレット。

自分の才能の無さに気がついて、幸せの為に堕落を選んだミミクリー。

死の間際にローレルとマーシャに大好きと伝えたかった誰か。

その記憶に苦しむ事になっても、変わっていった彼女達を全員覚えている事が自分に出来るせめてもの事だったのに!

「あぁ、まだ彼女たちのことを忘れたくない、なぁ。記憶の中でしか生きることができないのに、僕までが忘れてしまえば、彼女たちは…………」

小さく呟き、最後の力を振り絞るとストールをきつく握りしめる。

痛みに支配された神経は、いつもと変わらない手触りなど感じさせてくれなかった。



目の前でどさり、という音が聞こえる。

どうやらローレルが意識を失ったらしい。

「……はぁ?」

テオの口からはまず困惑が漏れた。

こんなの聞いていない。

なんでも知ってるイライザからこんな展開一ミリも聞いていない。おかしい。イライザ様が伝えないなんてことがあるか??おかしい。おかしい。おかしい。疑問と違和感で頭の中がぐつぐつと煮えては茹だってゆく。……いや。

「……っはは、やり直せってか?笑えるな。冗談キツいよ」

苦痛の中零れたのはまたしても笑みだ。ここで散ったって別にいいだろう。向こうには彼だっているし、別に悪い話じゃない。……悪い話じゃ…ないだろ、幸せに生きるために造られたのならこんな展開もまた幸せの内だ。

そう教育されたのなら、そう考えるしかないから。そうだろ。

──“幸福の街の住民”ならどんな苦痛も死も、幸福だと受け入れないと!

ひくりと引き攣る口角を無理矢理上げると、思い切り息を吸い込んだ。



安全の為、火を使わないユークロニアには消化器の備えなどは無い。つまり、シュールとマリアにはただ狼狽えることしか出来なかった。

炎が消えた頃、倒れ伏した彼らに近寄って息を確認すれば薄らと呼吸が感じられる。

とはいえ、早急に処置をしなければ命はないだろう。

「シ、シュール……!!イライザに……」

そう言いかけたマリアが気配に反応したのか勢いよく後ろを振り返れば、いつの間に接近されたのか、それはとっくに目と鼻の先にいたのだ。

黒のリップで縁取られた口元が妖艶に弧を描き、蜂蜜色をアクセントとした軍服が洗練された佇まいを引き立て、同色のアイシャドウが輝く目元は細められる。

「けたたましい爆発音と目が眩むほどの閃光……デリックと剤の元から生まれた“愛しい我が子”は、実に見事なものだ」

クイーンビーの男らしい腕がマリアに伸ばされ、そのまま小さく柔らかな彼女を抱き締めれば、焦げた皮膚や衣服の匂いと共に、誘うような甘い香水が鼻腔を擽った。

何故剤の遺体に爆弾が仕掛けられていたのか。何故このタイミングで爆発したのか。何故今彼が現れたのか。何故今自分が抱き締められているのか。何が何だか分からない、といったマリアの様子を意に介することなくクイーンビーは笑顔を深める。

そして彼女の名を呼び、問いかけるのだ。

「貴様もそう思うよなァ? 忌々しい業火から蘇りし熱狂の魔女、ウィッチ・ゼロトリー‪❤︎」

シナリオ ▸ 内蔵
スチル ▸ はむにく 匿名スチル班 あし
ロスト ▸ なし
エンドカード  ▸ 加工済み魚類
ローレル・アングレカムの裏CSが公開されました。
テオ・バーナードの裏CSが公開されました。
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