act9


全てのデザインが統一された建物。網目状に張り巡らされた街路。普段は立てられている店の看板も今は全て仕舞われており、住民は全て住居であるタワーに避難していた。
人のいないユークロニアは不気味な街だ。いくら歩いても風景は変わらず、無個性な美しさが広がっている。
レプスはその街の、監視カメラの死角を縫うようにして歩いていた。

団長であるウィッチ・ゼロトリーは死に、サーカステントは燃えた。
彼女の指令により街に人質達を追いかけに行ったサーカス団員達は、帰る場所を失ったのだ。
また、彼女を慕うが故にBlack widowに入団した団員も多い。特にタランテラなんかはひどく取り乱したもので、ニュンやクイーンビーが居なければ燃え盛るサーカステントの中に飛び込んでいたのかもしれない。
しかし、少し遅れて合流したシュルが指揮を執った事で彼らは統率を取り戻す。
シュルの出した指令は、“目立たぬように団体行動を避け、住居タワーに向かう”というもので、目的は連れ去られた剤の奪還。
どうやらシュルは交渉を終えた剤とイライザが共に歩く姿を見ていたらしい。
そうしてサーカス団員達は剤がイライザと取引した事なんて知らないまま別れ、住居タワーへと向かうことになったのだ。

「ちょっとこの街監視カメラ多くない?何でこんなに多いわけ……???」
ときには無機質な外壁に背を預け、ときには影を縫う様に物陰に忍び、住居タワーへとレプスは歩みを進めていた。
路地裏に潜み、街中に張り巡らされた監視カメラを見落とさないように、視線を忙しなく働かせる。
本当なら、こんな煩わしいことはやめてサーカスらしく自由で、邪魔するものは蹴散らしながら堂々と道の真ん中を歩いていたいのに。
機械的に首を左右に振る監視カメラを死角から睨みながら唇を噛む。
「ウチも居ないし……とりあえず進まないと」
タイミングを図り路地裏から身を乗り出し、次の死角へと移ろうとしたときだった。

「……!レプス。イライザの言っていた通りここまで来ていたんだね」
反射的に心臓が跳ねる。
声のする方に視線を向けると、ローレルがこちらへ笑いかけていた。
「あーあ、見つかっちゃった……。まぁ仕方ないかあんまりこういうの向いてないし」
余裕そうにローレルに向き直る。
ローレルはレプスへ近づき、続けて話しかける。
「見つけちゃった。流石イライザだよね」
自慢しているともとれる嬉しそうな声色。
「イライザ、またあいつか」
イライザという名前を聞いて少し眉を顰める。今までの自分の努力は、どうやら全て無駄だったようだ。

「実際見てみてどうだい。いい街だろう?ユークロニアに住む気になったかい?」
路上で見かけた知り合いに話しかけるように微笑みかける。気味が悪い。
ローレルから距離を取ろうと、地面を蹴り後退する。
「ユークロニア、平和そうな平凡な日常。そんなの楽しくないし興味ないかなwww」
手を口に当て、小馬鹿にするようにクスクスと笑う。
「ずっと変わらない平凡な日常が1番じゃない?目まぐるしいと疲れてしまうし、変わってしまう世界は恐ろしいだろう」
後退られたことに少し困ったように眉を下げ、レプスが後退した分だけまた1歩ずつゆっくりと距離を詰める。

「変わらない世界なんて生きてて何が楽しいのからないな。それは生きてるって言えるの?wwwww」
平然と近づくローレルを見据えたまま、挑発的な態度をとり続ける。
「変わる世界の方が嫌だよ。大切なものはしまって、誰も触れないところにずっと置いておきたい。そういうものじゃない?」
心底レプスの言い分がわからない、と言いたげに首を捻る。
ローレルが懐に手を入れるのを、何か武器でも取り出すのかと警戒したがそれは大きく外れた。
懐から取り出されたのは綺麗にラッピングされた花束だった。レプスは少し驚き、花束を見つめる。

「そう離れられるとプレゼントを渡せない。……花束だよ。僕は温室で花を育てていてね。君のために作って来たんだ」
「P.N.Gくんに作ってもらって何も返せていないままだろう?君にお返し、というのも変だけれど。折角だ。貰っておくれよ」
……あぁ、あの時の。
第二幕の公演でP.N.Gくんが彼に渡していた、雑草と骨のブーケを思い出す。

「P.N.G……。そうだね。君は花束を作ってもらってたね。」
「それは君が本人に渡してあげればいいんじゃない?」
一歩踏み出しローレルに顔を近づけ、意味ありげな微笑を送る。
レプスは手を後ろに回したまま一向に受け取る素振りを見せない。それどころか、顔を近づけられ少々たじろぎ、何度か目を瞬かせる。
「……?死んだ人には渡せないだろう。だから君にと思ったんだけれど。気に入ってくれなかったかな、残念だ」
ローレルは肩を落とし、レプスへと伸ばしたままの腕を曲げ、貰い手のなくなった花束を寂しそうに見つめる。 
「あれ?君が死んでP.N.Gに会いに行けば良いって意味だったんだけど、まぁいいよ私が会わせてあげるから!w」 
少しローレルと距離をあけ、武器を構える。 
「それまで花束は持っておくといいよ」 
レプスが武器を構えるのを視認すると、これ以上会話はできない、と首を振る。 

「そうだね。わかってくれないのは悲しいけれど、価値観が合わないみたいだ」
花束を傍に置き、シャベルを構える。シャベルにはミミクリーが帽子につけていたリボンが新しくかけられ、それを握る左手にはアイザックのものだったであろうグローブが覗く。 
「アイザック、……ミミクリー。力を貸してね」
順にに目線を落としたあと、ゆっくりとレプスに向き直った。 
「準備はできたみたいだねwサーカステントは無くなったけど私のショーは終わらないから。君を痛めつけて殺してあげるよ!!www」 
そう言い終わると同時にローレルへ切り掛かるが、レプスの攻撃は空を切る。
「避けないでよ。私がつまんないでしょw」
「ごめんね。君を楽しませるためじゃなくて街を守るためだから」
「大丈夫。顔しか狙わない。君が動かないでいてくれるなら、だけど」
ローレルは大きくシャベルを振りかぶる。発言通り、顔目掛けて振り下ろされた攻撃を避けきれず、鉄の塊が頬を掠めレプスの肩を強打する。

「うっ、ちょっと顔を狙うだなんてひどくない?君たちクローンの中で流行ってるの?www」
肩に付いた土埃を払いながら、顔をしかめる。
痛いからじゃない、彼の行動原理が理解出来ないから。
私の趣味が世間から忌避されるものであることはわかってるけど……いや、だからこそ彼のそれが理解できない。

「……ひどい?どうして?僕は君たちのためを思っているだけなんだけれど」
彼の心底傷ついた表情が、裏のない善意からくる行動であることを示していた。
「君、言ってる事おかしいよ」
正直に思ったことがつい口から漏れる。
「まぁいいよ。君がそう来るなら私も手加減しないから」
意趣返しに、ローレルの顔目掛けて武器を振るう。剣は、彼の頬に赤い線を描いた。

「君が私の顔を狙うからだよ?どう?痛い……??ww」
「……っつ。…痛いけど、まだ笑える痛みだ」
傷ついた頬を拭い、笑顔が崩れていないことを確認するようにレプスに対して笑ってみせる。
「顔は狙われたくないんだね?……わかった。今は君の気持ちを汲み取ろう」

急に方向転換をしたからか、標準がぶれ当たらない。
「へぇ、顔は狙うの辞めてくれるんだね。当たらなければ良いだけだから別に構わないんだけどね」
先程の失敗を皮肉り嗤う。
「うん。やめてと言われたら出来るだけやめるようにとイライザさんから言われているから」
……またイライザ。彼のオカシな思考はアイツの教育の賜物か。
「へぇ、やっぱりクローンはみんないい子ちゃんばっかりでつまんないね」
心做しか、剣を握る手に力が入る。
お互いに振りかぶった武器が衝突し火花が散った。

押し合いでは埒が明かない。レプスが後退し距離をとるのを逃さず、ローレルは地面を蹴りレプスの懐に入り込もうとする。

___誘われた!
レプスはニヤリと笑い容赦無く斬撃を叩き込む。
勢いそのままに受けた剣先が彼の顔を縦に斬りつけた。
「っわ。……サーカス団の人も良い人たちばかりだと思うけど。きっと君も良い人だ」

____私が?良い人?
思いもよらない発言に、レプスは思わず立ち止まり苦笑する。
「良い人。君の言ういい人ってどんな人なんだろうね。少なくとも私はいい人じゃない自覚はあるんだけど……w」
「いい人はそのままの意味だよ。命を尊び、皆を愛せる人。君もそうだろう。人間なんだから」
命を尊び、皆を愛せる人……ね、乾いた笑いがこみあげてくる。
彼はふざけているんじゃない。相変わらずの真剣な眼差しだ。

「ふーん、私には理解できないな」
「君を殺せば分かるかな……?ww」

彼の甘い考えを砕かんと、ローレルの足に剣を突き刺す。
大動脈は狙わない。彼にはもっと痛がって、苦しんでもらわないといけないんだから。

「……僕を殺してもわかりはしないだろうね。そもそも、君が何故わからないか僕にはわからないんだけれど」
深々と剣が突き刺さっている今がチャンスだ。
息をつき、迷いなくレプスの腹を殴打する衝撃で剣が引き抜ける。
痛みで反射的に眉間に皺を寄せてしまうが、それよりも。
今まで簡単に避けられていたシャベルに思った以上の手応えを感じ、その重さに罪悪感を覚える。

「!……ごめんね。痛いだろうけど、街のためだから」
雑念を振り払うように、柄を持つ手を強く握りしめた。
「グッ、、、結構これ重いんだね。謝らなくていいよ、最後は私が殺してあげるから」
……P.N.Gくんも、コレと同じ痛みを味わったのかな。
横腹を抑えながら少し苦しい表情をするが、すぐにいつもの表情へと戻る。
それでも傷口が痛むことに変わりなく、剣の軌道はローレルまで届かない。

「僕はここで殺されるわけにはいかない。だから謝るよ。許してもらいたいわけじゃないけどこれが僕の誠意だから」
ローレルはシャベルを構え、レプスに向き合う。

「あはは!君の誠意か。なるほどね」
レプスは適当に相槌を打ち話を終わらせる。
振り下ろされたシャベルを避け、踏みつけると同時に獲物の肩に剣を突き刺した。

「肩に刺さっても君の服黒いから血があんまり見えないね」
剣を引き抜き、血が服に滲むのを見てレプスは少し残念そうに言う。
「確かに服は血が目立たないようになっているけど……ストールの汚れを落とすのは大変だから血が付くと困るんだよね」
何故残念そうにしているのか引っかかりながらも、特に言及せず、ローレルは大切そうにストールの汚れを払う。
「へぇ、そうなんだ」
レプスはローレルの話に怪しい笑みを浮かべる。

ローレルはシャベルを振り下ろすがユラリと躱される。レプスの一閃も頑丈な鉄の柄に防がれ届かない。
レプスは何か企んでいるのだろう。でもそれがなんなのかはわからない。
疑心を払うようにただ振ったシャベルはそのままレプスの横腹に食い込んだ。
「っよし、当たった!」
命中した感覚に喜んだのも束の間、人を殴る感触に慣れるべきではない。嫌な感覚を塗り替えるようにシャベルを握り直す。

「ぐぅっ……!!!はぁ、そろそろめんどくさいんだけどな」
腹を抑えながら少しよろめく。
「めんどくさいと思うのならこの街は諦めてくれると嬉しいんだけど」
「私も別にこの街に興味無いんだけど、剤を返してもらわないとw」

「君ずっと笑顔だし、痛くないの?苦しくないの?もっと恐怖してよ。つまんない」
これだけ戦っても弱音一つ吐かないローレルに対して思い通りにならない不満をぶつける。
「痛いし苦しいし怖いよ。でも笑顔じゃない僕なんて僕じゃないから、我慢できる」
傷を押さえながら口角を上げる。少し歪ではあるが、いつもの通りの柔らかい笑顔だ。
しかし、顔色の些細な変化をレプスには見抜かれてしまう。

「やっと笑顔が歪んだね!!wwそう言う顔が見たかったんだ!!」
満足そうにレプスは顔をほころばせる。
「その笑顔がいつ崩れるのか、楽しみだね……w」
ローレルの苦痛に歪む表情を想像し、笑みが口角に浮かぶ。
「笑顔が歪むと嬉しいの?わからないな。僕はずっと笑顔でいたいし、みんなにはずっと笑顔でいてほしいんだ。……そんな世の中になるまで僕は死ねない。その途中で君が邪魔をするなら手加減はしないよ」

ローレルのシャベルが腹に当たる。バキッと嫌な音が悪寒と共に全身に伝わった。
「うぐっ……!!!うっ、これやっちゃったかな」
「まいったな。あばらが折れたみたい」
腹を抑え怪我の状況を確認し、ぼそりっと呟く。
「……!そこまでするつもりは、」
あばらが折れたという発言に狼狽える。手に伝わった人を殴打したときとはまた違う感触を思い出し、シャベルを握る手が弛む。
「いや、でも今は敵同士、だもんね。心配してる場合じゃないか」
思い直し、シャベルを構えレプスに向き合う。

レプスの斬撃を防ぎながらシャベルを振るうが、やはり先程のことが頭を過ぎり強く踏み込めない。
これでは泥試合だ。
彼女をこれ以上傷付けなくないが、かと言って負ける訳にはいかない。

「……うん、ごめん。他のみんなみたいに器用じゃないから加減は出来ないや」
諦めたように、大きく振りかぶったシャベルがレプス肩に直撃する。
「いっ……!!!クッ……」
肩を抑え体制が崩れる。ローレルを小馬鹿にして笑う余裕もないようだ。
蓄積したダメージが重しとなり、レプスにのしかかる。軽快だったステップは今では心許ない。

キレの無い剣の軌道は避けるに容易く、憔悴したレプスを見つめる。
……僕のせいで彼女は。
怖気付く足を叱咤し、距離をつめる。
「そろそろやめないかい?僕も本意じゃないんだ。君がユークロニアに来てくれるなら……」
と、言いかけた口を閉じる。情けをかけるのは彼女に対して不義理な気がした。
かける言葉も見つからず、ただ一心にシャベルを振るう。
足を掬われたレプスはバランスを崩し、剣を落とす。そのまま膝から崩れ、その場に手をついた。

「はぁ、はぁ、はは、はははは……痛いな」
顔を歪め息を切らして、呼吸を整えようと空気を吸う。笑い声はどこか無理しているようにも聞こえる。
勝敗はどちらか、火を見るより明らかだ。
勝利を確信し、ローレルはレプスヘ歩み寄る。
「ウィッチ……」
そう呟くと、息を整え袖から切り札を取り出す。
それは見覚えのある形をしていた。

____ウィッチ・ゼロトリーの銃だ。
サーカステントの焼け跡から、こっそり回収していたのだ。
ローレルへ銃口を向け、薄笑いを浮かべながら引き金を引く。
弾はローレルのストールに当たり、風穴を開けた。
「……!拳銃?」
思ってもみなかった飛び道具に驚き、後ずさる。
穴を慌てて確認すると笑顔は崩れ、表情は途端に焦りを帯びる。
「っ……レプス、よくも、……」
怒りで声を震わせシャベルを振るうが、力みすぎたのか照準が狂う。

「……君のそんな顔が見れるなんてね……ウチには感謝しないとっ……」
レプスは拳銃を少し眺めると、ゆっくり立ち上がり剣を拾い、ローレルに向けて構え直す。
「なにを感謝することがあるんだい。人の大切なものを傷つけたことに?」
普段の温厚な姿はなりを潜め、淡々と言葉を紡ぐ。そのまま答えを待たずしてシャベルを振りかぶるが、器用に受け流されてしまう。

もう一度と、振り上げたシャベルが地面と擦れ火花を飛ばす。大振りの一撃を避け、剣を突き刺そうと力んだ瞬間傷口から血が滲み足が止まる。
身体は悲鳴をあげているはずなのに、満身創痍の彼女の笑顔は一段と眩しいく、歪んでいる。
それで理解する。
「……やっぱり君とは分かり合えないみたいだ」

「大切なものを傷つける人の気持ちも人が傷つくのを見て喜ぶ人の気持ちも分かりたくないから、これでよかったのかもね」
穴の空いたストールを握りしめる。もう戻らないそれを確かめるように、強く。
言い終わると、レプスの足元を狙い叩きこむ。もう立てなくなるように精一杯の力を込めて。
体が思うように動かず、そのまま足を掬われる。受け身も取れず地面に倒れ込み、痛みに顔を歪める。

……全身が痛い。もう1ミリも体を動かせそうにない。
これが死ぬ感覚なんだとレプスは直感的に感じた。
今度こそ私は負けたんだ。
今の状況にP.N.Gを重ね、思い出す。

「ねぇ、君にもう一回聞くんだけどさ、P.N.Gの顔、何で潰したの」

以前一度、ローレル問いかけたことのある質問をもう一度投げかけた。あのときは納得出来る答えは得られなかった。ローレルの顔を見ようとするが体が動かない。仕方なく、レプスはそのまま言葉を続ける。
「顔が残ってたら悲しいって君は答えてだけど私もそうするつもり?」
レプスは知りたかった。自分もP.N.Gと同じようにされるのかと。
唐突な質問にも動じず口を開いた。
「そうだね。潰すよ」
数少ない語彙の中からなるべく伝わりやすいように、慎重に言葉を選ぶ。
「……サーカス団に来て、初めて友人が死ぬところを見た。死に際の顔って別人みたいだと思ったんだ。嫌だろう、知っている顔が知らない顔をしていたら」
ミミクリーが足掻き、死にたくないと藻掻くあの姿が今でも鮮明に思い出される。
らしくない表情を浮かべる彼女。不遜で、傲慢な姿はどこにもない。
思い出で蓋をするように瞼を閉じ、また開く。
「だから潰す。変わったものを残さないように。それぞれが思い出を大切にしまっておけるように」
まるで、それが当然かのようにレプスに語りかける。それはちぐはぐで、自分勝手な話だ。

P.N.Gくんの痛がってる顔、恐怖した顔、泣いている顔。1番大好きな彼の顔を思い浮かべる。
「そっか……君は、勝者だから好きにするといいよ」
レプスはローレルの回答を聞き、少し笑い、ゆっくり言葉を返す。
「じゃあ好きにさせてもらうよ。君の仲間が君を君のまま覚えていられるように」
ローレルは話していて力が抜けたのか、強ばった表情が緩む。下がっていた口角は、再び元の笑顔に戻っていた。

「ねぇ、君が初めに私に渡そうとしてくれた花束、今貰ってもいい?」
耳があまり聞こえなくなってきた。もう時間があまりないらしい。
口が聞けるうちに話を切り出す。

花束の話を出され、ふとその存在を思い出した。
「いいけれど。……なにに使うんだい」
視線を巡らせ花束を拾い、丁寧にホコリを落とすとレプスの近くへ置く。
視界がぼんやりとしている。だが、気配でローレルが花束を近くへ持ってきた事がわかった。
穏やかな声色で答える。
「どうせ死ぬなら私がこの花束をP.N.Gに持っていってあげるよ」
少し笑って、ローレルに別れを告げる。
「じゃぁね」

レプスは目を瞑ると、そのまま動かなくなった。

「…………さようなら。死後の世界があるのなら、幸せになれるといいね」
投げかけた言葉に対する答えは返らない。祈るように瞼を閉じる。
そして表を上げ、シャベルをレプスの顔を狙い構えた。
「君の顔が今の顔で上書きされないように。君が綺麗な思い出になるように。ちゃんとわからなくしてあげるから」

寸分狂わずシャベルを顔へ振り下ろす。P.N.Gの時と変わらず、何度も。それが正しいことだと信じて。
服装でしか判断できなくなったレプスだったものを満足そうに見下ろすと顔を上げる。
息をつき、他の仲間が指示された場所に視線を送った。

「さて、他の人達はどうなっているかな。無事だといいのだけれど」
「……それに、ストールも直さないと」
穴の空いてしまったストールを握りしめ、その場を後にした。
シナリオ ▸ 加工済み魚類
スチル ▸ はむにく 加工済み魚類 匿名スチル班 ねくら ゆか
ロスト ▸ レプス
エンドカード  ▸ 加工済み魚類
レプスの裏CSが公開されました。
act 8
act 10