時計の針はすでに十二時を回り、街の喧騒もとうに静まり返っている。窓の外には深い夜空が広がり、街灯がその静寂を照らす。

会場内の雰囲気も、賑やかだった時間から一転して穏やかなものへと変わっていた。料理や飲み物はほとんど残っておらず、テーブルの上には空のグラスと、わずかに残った料理が見えるだけだ。皆の表情も、少しずつ疲れが見え始め、時間の流れを感じさせる。

「さて、そろそろお開きとするか」

ウィッチが立ち上がり、皆に声をかける。その言葉にクイーンビーは最後の一口をグラスに注ぎ込み、静かにあおる。グラスを口に運びながら、彼はふと視線を遠くに向け、少し呟くように言った。

「偶には静かに語らうだけの夜も悪くない」

「でももう少し早く始めた方が良かったね。反省だ!」

デリックの目線の先には、隣に座っていたP.N.Gにうとうとと頭を傾けつつあるタントがいた。タントはそのまま、目を閉じかけているように見える。

「んん……起きてるよー……寝てないよー……」

タントは声を出し、顔を上げようとしたが、どうしても眠気には勝てなかったらしい。

「ふふん、タントの事はお兄さんに任せなさい!きちんとベッドまで運んでおくよ!」

「私も眠くなってきたし、ここで失礼するよ。じゃあね〜」

レプスは軽く手を振りながら、パーティー会場を去る準備を始める。

「ウチ、片付け手伝うよ」

「私もお手伝いさせてください」

シュルとタランテラがウィッチの傍に歩み寄る。しかし。

「二人ともありがとうやけど、今日は一人になりたい気分やねん」

「じゃあ僕達も早めに撤収しようか」

「ええ、無理はしないで下さいね」

デリックと剤はそう言うと空になった食器を手に取り、会場を後にした。


静かな空間に残されたウィッチは、鼻歌混じりに沢山の食器を手際良くワゴンに乗せてゆく。

「次の公演も楽しみやなあ」

自分の作り上げたサーカス団、Black widowはこれからも数々の素晴らしい舞台を作り、人々を魅了し続ける。あの瞬間、あの一時が、観客の心に何かを残す。

それが彼女の存在意義であり、何よりの喜びだ。自分の手のひらで作り上げてきたものが、こんなにも素晴らしい仲間たちに支えられていることが、どれほど嬉しく、誇らしいことか。

彼女の心の中でその思いは大きく膨らみ、深い満足感をもたらした。

しかし、そんな思いに浸っている間にも、彼女の体は確実に限界に近づいていた。突如、激しい頭痛が彼女を襲う。

その痛みは、一瞬で全身を包み込み、目の奥から脳まで、鋭く突き刺すように広がった。彼女の体が震え、息が詰まる。

「ァ、ガ……ッ!」

ウィッチは声をあげることすらできず、その場に立っていられなくなり、壁に寄りかかるように倒れ込んだ。体が熱く、そして冷たく感じ、まるで内側から何かが押し寄せてくるようだった。

脳の中で、絶え間ない痛みが波のように押し寄せ、彼女の意識を引き裂こうとする。

その痛みは、ただの疲れや倦怠感ではない。何度も何度も、繰り返し襲ってくる。

彼女はその痛みに耐えながらも、必死に気をしっかり保とうとした。

その瞬間、まぶたの裏に映ったのは、昔の記憶の断片だ。自分をマリアと呼ぶ誰かの影。ぼんやりとした記憶の中で、強烈な空虚感とともにその名前が心の奥底でこだまする。気を抜けば、その空白に飲み込まれてしまいそうな脱力感が襲った。

「ウチは、」

頭痛を堪え、ポケットの中から鎮痛薬を取り出すと水で無理やり流し込む。その瞬間、薬が喉を通る感覚と、頭痛が少しだけ和らぐ感覚が交錯した。しかし、それでも完全には痛みは消えない。


「……ウチは熱狂の魔女、ウィッチ・ゼロトリー」

狂気でなければ、つまらない。

小さな呟きは誰にも聞かれる事無く消えていった。